2012年7月19日木曜日

精神医学における治療効果の脳機能画像研究:方法論的挑戦と推奨される方法

Functional neuroimaging of treatment effects in psychiatry: Methodological challenges and recommendations. 2012 The International Journal of Neuroscience

fMRIは、脳機能における症候と関連した異常を特定することによって精神障害や神経発達的障害の神経生理学的基盤を解明するために有用である。また、fMRIはうつ病や不安障害、統合失調症や自閉症などの精神障害や神経発達的障害に対する治療の作用機序に理解に大いに期待できる方法である。しかし、精神疾患における治療効果の検討にfMRIを使用することはfMRIを繰り返し測定することの性質や症状に対する介入の効果と特定の脳活動に対する治療効果の間の関連性をどう評価するか、そして脳機能に対する介入の効果について最も良い因果関係の推論をするにはどうすれば良いか、といった特殊な方法論的なポイントがある。加えて、神経発達的障害に対する治療効果の検討は、脳の成熟、解析手法、モーションによるノイズの可能性といったさらに特殊な問題をもたらす。我々はこれらの方法論的な問題のレビューとこれらのトピックに対する最も良い実践の推奨方法を提供する。

 ・複数回fMRIを行うことの問題
fMRIの再テスト信頼性は高いという報告と低いという報告がある。
・推奨される方法
マルチセンターMRIでMRI装置の特性を相殺すること。非臨床サンプルで再テスト信頼性を検証したのちに臨床サンプルで実施すること。

・fMRIで使用する認知課題の選択についての問題
今のところ治療効果を検討するためのGold standardな課題は存在しない
・推奨される方法
大規模なワーキンググループを作って様々な認知課題の信頼性や妥当性を検証すること。CNTRACSでは統合失調症を対象に認知課題の検証を重ねている。

・対照方法の選定の問題
検討したい介入の効果には、対照方法のデザインによって要求バイアスやプラセボ効果などの様々な剰余変数が混在してしまう。
・推奨される方法
ウェイティングリストやプラセボ、2種類以上の治療への無作為割り付けが最も望ましい。

・fMRIの定量性についての問題
fMRIの多くはBOLD信号を計測している、BOLDは脳活動の相対値であり絶対値ではない
・推奨される方法
時間分解能が気にならなければPerfusionやASLなどの撮像方法を用いるべき。

・治療と症候の関連についての問題
アスピリンによって筋肉痛は和らぐが、筋肉痛の原因はアスピリンの欠如ではない。これと同様に治療による症候の変化が病態や治療効果と直結しているとは限らない。
・ 推奨される方法
理論的な整合性と補強するデータを継続すること。また、治療によって完全に寛解した状態を対照群と比較することや特性の変化を調べるために脳活動が治療によって正常化した群と疾患のハイリスク群を比較すること。

・治療の効果と脳活動の変化の不一致の問題
 治療介入は全ての患者に有効ではないことを踏まえると、症状の改善がみられても脳活動に変化が無い場合やその逆の場合が起こりうることは留意すべきである。
・推奨される方法
十分に効果が実証されている治療介入を用いること。また、何の指標をもちいて主要な結果とするかを事前に考慮すること。

・治療反応の不均一性
治療効果は不均一であり、脳活動との関連を検討する上で問題がある。
・ 推奨される方法
サンプルサイズの問題はあるが、反応群と非反応群を比較すること。あるいは治療反応を連続量
として脳活動との関連を検討すること。

・fMRI課題のパフォーマンスに対する治療効果の問題
治療介入が課題のパフォーマンスに影響する場合、パフォーマンスを共変量に入れると脳活動への治療の影響を検出しにくくなる。
・推奨される方法
治療介入が課題のパフォーマンスに影響しないとみなされる場合は、共変量にパフォーマンスを入れること。

・過度なモーションの影響
基本的にBOLD信号の変化は課題よりも動きの影響を受けやすい。また、MRI装置内で静止することは患者にとって困難である。
・推奨される方法
バイトバーやフェイスマスクなど可能な拘束方法をとること。また、MRI装置のモックサンプルで慣れさせておくのも良い。

・治療効果に対する発達の影響
介入の効果や、課題のパフォーマンス、脳活動が乖離しているのと同様に、児童の場合は発達の問題も混在してしまう。
・推奨される方法
成人で検討したうえで児童に適用する。

・脳構造の違いについての問題
自閉症などの発達障害は健常人と比較して脳構造に違いがある。この違いは脳活動にも大きく影響する。
・推奨される方法
脳構造を標準化することが必要。

・児童の脳構造の問題
児童の脳は成人とは構造が異なる。このため成人の標準脳をテンプレートにすることに問題が生じる。
・推奨される方法
7歳以上では成人の標準脳で適切に標準化されるという報告もある。しかし、既存の児童の点標準脳のテンプレートを用いる方が適切である。

まあ、基本的な問題と解決方法である。別に治療介入に関する脳機能画像研究でなくてもほとんど共通する注意事項。きちんと覚えておく必要はあるが。

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